中国が元安政策を続けられない理由その1~外圧

当サイトでみてきたように、中国政府は中国人民銀行を通じて、人民元という通貨をコントロールし、為替レートを米ドルとペッグ(連動)させています。そして、人民元を実力よりも遙かに安い為替レートにすることで、中国の輸出産業を国際経済で有利に働かせて、高い経済成長に繋げていました。

しかし、中国はこの元安政策を永遠に続けていくことは出来ません。元安政策は「劇薬」であり、使い続けていれば将来に大きなデメリットを生んでしまうからです。


その理由の一つが、外圧です。中国が人民元安による輸出で儲けていることは、裏を返せば他に損をしている国があることを意味します。為替レートは表裏一体、ある通貨が安くなれば、必ずその相手通貨が高くなるからです。

典型例が、我が国日本との関係です。1994年1月に人民元が、1米ドル=5.72元から8.72元に切り下げられたことで、日本の輸出産業は、中国との競争に敗れていきました。90年代以降の日本の「失われた20年」と称される経済停滞は、バブル崩壊の余波だけでなく、人民元安による中国経済の台頭も大きな理由なのです。

また2008年のリーマンショックで、世界経済は大きな減速を余儀なくされました。その回復のため、各国は輸出による景気浮揚に力を入れました。例えばアメリカは、就任直後のオバマ大統領が「輸出を倍増する」という公約を掲げ、ドル安政策(量的金融緩和)を始めました。欧州最大の経済大国であるドイツは、ギリシャ危機によるユーロ安を逆手に取り、輸出を大きく伸ばして経済を回復させています。

要するに、世界各国は経済成長のために、自国の通貨を安くしたいと考えています。世界中で「通貨切り下げ合戦」を行っているのに近い状況です。

よって、1994年以降ずっと恒常的に元安政策を続けていた中国は、各国から批判に晒されやすいのです。国連やIMFやG20などの国際会議では、中国の為替操作は常に問題に挙がる議題です。

そして中国としても、いつまでも外圧を突っぱねて、元安政策だけで貿易を有利に行えない状況に追い込まれつつあります。その一つがTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)です。TPPとは、貿易等で関税を撤廃することで経済の発展を目指す、国際協定のことです。しかし、単にお互いの貿易活性化を図る提携ではなく、実はTPPは中国を牽制する意味合いも非常に大きいのです。中国抜きの経済圏を作ることで、中国政府を焦らせて、彼らの一方的な独占経済を崩す狙いもあるのです。※一つは、外資に対して閉鎖的な中国国内市場の開放。もう一つが、人民元切り上げのピッチを上げさせることです。

そして中国政府も、当然ながらこの包囲網に気づいており、このまま放置することが長期的に国益を損なうことも分かっています。ですから、徐々に人民元の切り上げピッチを上げることと引き換えに、国際交渉で優位に立ち回ろうというスタンスに、切り替えつつあるのです。