人民元が切り下げの可能性もある理由

人民元が中国人民銀行による為替操作で、円やドルなどに対して、非常に割安なレートに保たれている事は、当サイトで何度も解説した通りです。そして、人民元投資を奨める人・業者の多くが、将来の人民元切り上げで、円安による為替差益が得られる確率が高い、と主張しています。当サイト管理人も、長期的には人民元は切り上がって行くものだと考えております。

しかし、短期で見れば話は別です。中国国内の景気動向次第では、1994年1月の時と同じように、突然、人民元を切り下げてくる可能性は、十分あり得ると考えます。

切り下げが考えられる理由は、中国の経済不安です。リーマンショック以降、中国の経済成長率は鈍化しており、以前のように10%を超えるような水準は望めなくなっています(参考⇒中国の経済成長率)。しかも近年、国内の格差問題などを火種に、中国国民の政府への不満は高まっています。中国政府としては、これ以上経済成長を鈍化させ、失業率を高める訳にはいかないのです。

そして2013年夏、シャドーバンキング問題の表面化により、不動産バブル崩壊の可能性も高まってきています。不動産バブルの崩壊は、経済成長には最も悪影響を及ぼします。中国政府は、90年代の日本のバブル潰しの失敗を教訓にしており、絶対に不動産バブルをハードランディングさせまいと必死です。

従って、一般的な金融緩和(政策金利預金準備率の引き下げ)に留まらず、場合によっては人民元の切り下げも辞さないで、経済の下支えに走る可能性は十分あり得ます。

2005年6月に中国政府は、1ドル=8.28元から徐々に切り上げる事を決め、2013年には6.1元程度まで元は上昇しています。例えばこの為替レートを、再び1ドル=8元程度まで切り下げれば、貿易黒字は額面だけでも約3割増加します(実際には競争力の強化で更に増えるはず)。これで輸出を中心に経済成長を支え、その間に不動産バブルをソフトランディングさせる・・・中国政府がこう考える確率は、決して低くないだろうと予想できます。

この理論を裏付ける理由として、ある記事の存在が指摘できます。13年7月9日付の中国証券報が、「輸出企業などが政府に対し、人民元の切り下げを求めている」という記事を書いてきたのです。具体性の無い発言主である事や、中国がマスコミ統制を強いている事を考えれば、この記事は中国政府による「観測気球」な可能性が高いです。つまり、人民元切り下げを、具体性の無いレベルの話をでっち上げる事で、アメリカなど諸外国の反応を様子見しているのでしょう。

当サイト管理人は、この中国証券報の記事が出た事で、人民元切り下げの可能性は一気に高まったと感じています。従って、人民元預金などの短期的な為替差益を見込んだ投資は、リスクが高まっていると考えるべきです。実現するか否かは、今後のシャドーバンキング問題~不動産バブルの成り行き次第と思われますが、人民元の切り下げには、十分警戒する必要があると思います。